なぜ現場はDXを「邪魔くさい」と思うのか?熟練者に聞いてわかった「旨味」の作り方

現場のリアル

「現場のデジタル化を進めるために、作業員にタブレットを配って『これ見て作業してね』って言ったのに、全然使ってもらえない……」

DX(デジタルトランスフォーメーション)の担当者なら、一度はこんな壁にぶち当たったことがあるんではないでしょうか。

上層部からは「早くDXを進めろ」と急かされるのに、現場からは「邪魔くさい」「今のままでいい」と突っぱねられる。結果、現場のリアルなデータが全く上がってこずに足踏みしてしまう……。これ、どこの企業でも起きている「DX初期あるある」の絶望ルートです。

なぜ現場はこれほどまでにデジタルを嫌がるのか? 今回、現場の「熟練者」に本音をヒアリングして見えてきた、教科書には載っていないリアルな理由と、現場が手のひらを返して協力的になる「逆転の発想」をお届けします。

■ デバイスを渡しても「邪魔くさい」と言われる3つの本音

「やりたくない」んじゃない。現場からすれば、デジタル化する「旨味(メリット)」がサッパリ分からないから動かないんです。その背景には、現場と開発側の深い深い認識の乖離がありました。

① 「紙ベースの人海戦術」で仕事は回っているという事実

現状、現場で作業ミスを防ぐためにやっていることといえば、「紙のチェックシート」と、それをカバーするための「人による大量の追加チェック(ダブルチェックやトリプルチェック)」です。

つまり、ミスを減らすために「人の手間と時間」をめちゃくちゃ投資して、現状のやり方でなんとか仕事を持たせている状態なんです。現場からすれば「新しく操作を覚えるリスクを冒さなくても、今のやり方で回ってるやん」というのが本音です。

② 熟練者のプライド「なんで若手のレベルに合わせられなあかんねん」

会社がDXでやりたがるのは「熟練者から若年者まで、誰がやってもミスが出ないカバーシステム」です。 しかし、これを作業ミスがほとんどない腕利きの熟練者に見せると、こうなります。

「いや、普通にプロとして責任感持ってやってりゃ、こんなミスなんかせぇへんやろ。なんで若手のレベルに合わされて、こっちまでこんな面倒くさいシステム使わなあかんねん」

熟練者には熟練者のプライドがあります。彼らからすれば、システムにガチガチに管理されることは、自分の技術や仕事への取り組みを否定されているようにも感じてしまうわけです。ここに、評価システムや組織のあり方の歪みからくる「心の乖離」が生まれています。

③ 最悪なのは「紙の思考」をそのまま画面に置き換えること

そして一番やってはいけないのが、これまでの紙のチェック項目や人海戦術のめんどくさい手順を、「そのままそっくりデジタル(画面)に置き換えるだけ」のパターンです。

これをやられると、現場からすれば「ただでさえ不要なチェック項目が多いのに、画面をポチポチする操作の手間だけが増えた」という、最悪のユーザー体験になります。デジタルの先に「楽になる未来(価値)」が何も見えない。これでは現場に「邪魔くさい!」と一蹴されるのも当然です。

■ 【逆転の発想】現場にとっての「最高の旨味」を提示せよ

では、どうすれば現場は動いてくれるのか? 答えは簡単です。上にデータを上げるためでも、ミスを減らすためでもなく、「現場の痛みを解決する武器」としてデジタルを渡せばいいんです。

ここで、あるグループで実際にあった成功事例を紹介します。

そのグループでは、メンバーがいつもこんな嘆きを漏らしていました。 「毎日毎日、会議が長すぎる!マジで意味ないわ!」

これを聞いたとき、私は「ここだ!」と心の中でガッツリ握り拳を作りました。 そこで、メンバーに向けてこう持ちかけたんです。

「じゃあさ、その無駄な会議を辞めさせるための『根回しの根拠(データ)』を一緒に作らない?」

メンバーは一瞬ポカンとしました。 「会議が長いってことは、本当はもっと別の、本来の作業に時間を使いたいってことだよね? だったら、まずはグループの業務管理(作業時間の入力)をデジタルでやらせてほしい」

「え? なんで業務管理をしたら会議が減るの?」と思いますよね。

ロジックはこうです。 業務管理をデジタル化して「どの作業に何時間かかっているか」を1分単位で可視化する。そうすれば、データが蓄積されたときに「ほら、全体の労働時間に対して、会議の割合が多すぎて非効率でしょ!」と、上層部に突きつける最強の武器(エビデンス)になるんです。

この切り口を提示した瞬間、現場の目の色が変わりました。 なぜなら、デジタルを入力することが「無駄な会議を減らして、自分たちが楽になる」という明確な旨味(メリット)に直結したからです。結果、作業員たちは誰一人文句を言わず、めちゃくちゃ協力的にデジタルを受け入れてデータを提供してくれるようになりました。

■ まとめ:DX推進者が本当にやるべきこと

現場にDXが普及しないのは、現場のITリテラシーが低いからでも、反抗的だからでもありません。 「それをやって、現場にどんな旨味があるの?」という問いに、私たちが答えられていないからです。

  • ×:ミスを無くすために、管理をガチガチにするデジタル化(現場の負担増、旨味ゼロ)
  • ◎:現場の嫌な仕事(無駄な会議、面倒な報告)を減らすために、データを味方にするデジタル化(現場の負担減、旨味大!)

どこの企業も現場のデータが上がらずに困っています。だからこそ、現場の痛みに寄り添い、「これをやったら自分たちが得する」というストーリーを作れるDX担当者が、本当の意味での変革を起こせるのではないでしょうか。

あなたの会社の現場、いま何に怒っていますか? そこが、DX爆破の最高のスタート地点かもしれませんよ。

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