はじめに:記録するだけで終わらせない「次のステージ」へ
前編では、古い共有電子メモ帳の課題から出発し、現場との二人三脚で数々の不具合を乗り越え、新たな「業務改善(事象管理)アプリ」をなんとか本番稼働させたところまでをお話ししました。
💡 前編のおさらい システム刷新の本質はツールの置き換えではなく「業務フローの再設計」にあること。そして、本番直後の不具合にめげず、現場のリアルなフィードバックを力に変えて粘り強く修正を重ねたことで、アプリが現場に定着していった軌跡を振り返りました。
2024年10月に正式運用が始まったこのアプリですが、私の本当の戦いはここからでした。
なぜなら、システムは「作って終わり」ではないからです。現場にデータが溜まり始めたとき、そのデータをどう活かすかで、システムの価値は10倍にも100倍にも跳ね上がります。
後編となる今回は、ただの記録ツールだったアプリが、機能改善を経て、BI(ビジネスインテリジェンス)やAI(人工知能)を味方につけた「未来を予測するデータ活用ツール」へと大化けしていく、驚きの進化のプロセスをお届けします。少し大げさに言ってます。笑
運用改善サイクル:現場の「欲しい」を即座に形にする

本番移行直後のバタバタが落ち着いた2024年10月以降、アプリは「改善型運用フェーズ」へと移行しました。
ここで私が意識したのは、現場から上がってくる「もっとこうしてほしい」という要望に対して、とにかく打てば響くようなスピード感で機能を追加していくことでした。私たちが活用しているローコードツール(Power Platform)の最大の強みは、この「作りながら変えられる」という柔軟性にあります。
具体的には、運用のなかで以下のような機能を矢継ぎ早に追加していきました。
- 「上長コメント機能」の搭載:
ただ承認ボタンを押すだけでなく、現場の報告に対して「この対策は素晴らしい」「ここはもう一歩確認しよう」といった具体的なアドバイスやフィードバックをアプリ上で残せるようにしました。これにより、アプリが単なる報告書ではなく、生きたコミュニケーションの場に変わりました。 - 「検索機能」の強化:
「前に似たような事象があった気がするんだけど……」と思ったときに、キーワードや日付で過去の記録をサクッと探せるようにしました。古い共有メモ帳時代には埋もれてしまっていた過去の知恵が、一瞬で掘り起こせるようになったのです。 - 「URLコピー機能」の設置:
「この報告、ちょっと見ておいて!」とメールやチャットで他のメンバーに共有したいとき、そのページのURLをワンクリックでコピーできる小さな親切機能です。これが現場の「ちょっとした手間」を劇的に減らしました。 - 「報告事項に対する教訓」の設置:
現場で発生した事象において、こうすると良い。次回からはこういう動きをした方が良いなど、現場の声を残せるようにしました。
これらの迅速なアップデートによって、現場のメンバーも「声を上げればアプリがどんどん使いやすくなる!」と実感してくれるようになり、アプリの利用頻度とデータの質はさらに高まっていきました。
データ活用フェーズへ進化:BI連携で見える化した「現場の今」
2025年に入ると、アプリには数ヶ月分の貴重なデータがどっさりと蓄積されていました。 ここで、私はかねてからの念願だった大きな転換点を迎えることになります。それが「記録から活用へ」のステージアップです。
まず着手したのが、データを視覚的に分析するツール「Power BI(パワービーアイ)」との連携でした。
💡 ちょっと解説:Power BIとは? 大量のデータをグラフやチャートなどを使って視覚的に「見える化」し、直感的に状況を分析できるようにするマイクロソフトのデータ分析ツールです。
これまでは、データが入力されていても「今月は全体で何件起きているのか」「どの部署でどんな事象が多いのか」といった全体の傾向を掴むには、わざわざデータをエクセルに書き出して集計し直す必要がありました。
しかし、Power BIと連携させたことで、アプリに入力されたデータがリアルタイムでダッシュボード(分析画面)にグラフ化される仕組みを構築したのです。
これにより、以下のような劇的な変化が生まれました。
- 数字の「見える化」:
発生件数や対策の進捗状況が、誰の目にも一発で分かるようになりました。 - 傾向分析のスピード化:
「最近、特定のエリアでの事象が増えているな」といった変化に、マネジメント層が素早く気づけるようになりました。 - 教育・安全活動への活用:
過去のデータをグラフと共に振り返ることで、新人教育や職場の安全ミーティングの質がガラリと変わりました。
苦労して入力したデータが、現場を守るための「攻めの情報」に変わった瞬間でした。
AI分析機能の追加:オッサンのアプリに最先端の知恵が宿る

Power BIによる見える化だけでも、社内からは「お、これは凄いな!」と驚かれましたが、私の挑戦はまだ止まりません。2025年の後半から2026年にかけて、私はさらに一歩進んだ機能、そう、「AI(人工知能)分析機能」の組み込みに挑戦したのです。
「現場のオッサンが作ったアプリにAIなんて、流石に言い過ぎやろ」と思われるかもしれません。しかし、今の時代、最新のAI技術もローコードツールのなかに組み込んで活用することができるのです。
実装したのは、現場の作業者を強力にバックアップする「類似事例・対策支援AI」です。
現場のメンバーが新しい事象をアプリに入力すると、AIがその文章を瞬時に解析します。そして、過去数年間の膨大なデータの中から、「これとよく似た過去の事例はこれです」「その時は、このような対策を立てて解決しましたよ」と、おすすめの過去事例と対策案を画面にピッと提示してくれる機能を構築しました。
これによって、何が起きたか。
経験の浅い若いメンバーであっても、ベテラン勢が過去に残してくれた解決のヒントを、AIを通じてその場で引き出せるようになったのです。トラブル対応や業務改善のレベルが、属人的なものから組織全体の共有知へと格上げされました。
横文字で言えば「データドリブン(データを基に判断すること)」な職場への変革ですが、要するに「過去の失敗や経験を、未来の仲間を助けるための武器にする」という仕組みが、ついに完成したわけです。
展開・活用拡大:部内から他部門へ、広がる変革の輪(2026年)
そして現在、2026年。このアプリとデータ活用の仕組みは、私たちが所属する部門の中だけで留まるものではなくなっています。
「あそこの部署が、Power AppsとBIを使って面白い仕組みを回しているらしい」 「AIを使って過去の事例を検索できるアプリがあるらしい」
そんな噂が社内で広がり、今まさに「他メンバーへの共有・他部門への横展開フェーズ」へと突入しています。
最初は古い共有メモ帳への不満と、「現場の二重入力を無くしたい」という小さな、しかし切実な課題認識から始まった取り組みでした。「モダナイゼーション」なんて格好いい言葉も知らなかった現場の人間が、目の前の課題を一つずつ、粘り強く潰していった結果、気づけばBIやAIを駆使し、他部門の業務まで変えようとする全社的なDXの牽引役になっていたのです。
全体のまとめ:あなたの一歩が、職場の未来を変える

前後編にわたってお届けした、私の「業務改善アプリ」開発の全ストーリーを、超シンプルに振り返ってみます。
- 課題認識(古い共有メモ帳での二重登録に悩む)
- 試作・検討(Power Appsで画面を作ってみる)
- 業務設計(ヒアリングを重ね、業務フローを再構築する)
- マニュアル整備(現場が迷わない手順を作る)
- 試運用(テストを通じて現場に触ってもらう)
- 本番化+不具合対応(想定外のトラブルを現場との二人三脚で乗り越える)
- 運用改善(コメント機能や検索機能など、現場の声を即座に形にする)
- データ活用(Power BIで見える化し、AIで過去の知恵を引き出す)
- 横展開(部内での成功実績を、他部門へと広げていく)
この一連の流れを振り返って、これから職場のDXや業務改善に挑もうとしているみなさんに、どうしても伝えたい重要な示唆が3つあります。
- ① DXの本質は「ツールの導入」ではなく「業務の再設計」にある
単にシステムを新しくするのではなく、部署ごとの業務の違いを整理し、承認設計を見直すなど、業務プロセスそのものを綺麗に整えたからこそ、現場に愛される仕組みになりました。 - ② 完璧を求めず、現場の声(フィードバック)と一緒に育てる
本番直後の想定外の不具合にぶつかった時、私を救ってくれたのは現場からのリアルな声でした。私の「粘り強さ」が現場との二人三脚を生み、それが結果として圧倒的なスピード改修へとつながりました。 - ③ 泥臭い「記録」の先には、必ず価値ある「データ活用」が待っている
日々の正しい記録が一元管理されていれば、後からBIでの見える化や、AIによる分析といった高いレベルの変革へ必ずステージアップできます。
「モダナイゼーション」なんて、難しい言葉を使う必要は一切ありません。 大事なのは、目の前の現場の課題から逃げずに、手を動かし、現場の仲間と一緒に仕組みを育てていく熱量です。
もし、あなたの職場に古いシステムや非効率な二重入力があるなら、ぜひ小さくてもいい、最初の一歩を踏み出してみてください。その泥臭い一歩の先には、きっと数年後、想像もしていなかったような素晴らしい未来が広がっているはずです。
最後までお読みいただき、ありがとうございました!


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